南蛮|鋳物師《いものし》

同宿並にかくし置き他より顕《あら》はるるに於ては其処の名主並に五人組まで一類共|可処厳科也《げんくわにしよすべきなり》、仍下知如件《よつてげちすることくだんのごとし》[#地から2字上げ]奉行[#ここで字下げ終わり]と認《したゝ》めた檜《ひのき》の高礼がいかめしく樹《た》てられてゐた頃の事である。 長崎の古川町に萩原裕佐と云ふ南蛮|鋳物師《いものし》がゐた。

[#7字下げ]二[#「二」は中見出し]

「おい。お佐和。此間のあの『虎』をどこへやつたんだ。」「よくもかう珍なものを集めたものだ」とつい人がをかしくなるほど煤《すゝ》ぼけた珍品|古什《こじふ》の類を処狭く散らかした六畳の室の中を孫四郎は易者然たる鼈甲《べつかふ》の眼鏡をかけて積んである絵本を跨ぎ、茶盆を跨ぎして先刻から机の上、床の間、押し入れの中と頻《しき》りに引つくり返して何か探してゐたが、かう荒々しく声をかけた。「ぬしは又売つちまつたんだらうが。え? 俺にかくして。」 孫四郎の調子にはもうやゝ、刺《とげ》があつた。その刺にさゝれて、隣りの四畳で針仕事をしてゐた細君はやぶれた襖《ふすま》をあけた。「まあ、『又』なんて誰がいつそんな事をしましたらうか。」 やゝ上気した頬の赭味《あかみ》のために剃つた眉のあとが殊に蒼《あを》く見える細君はかう云ひ乍ら羞ぢらひげに微笑《ほゝゑ》んだ会釈《ゑしやく》を客の裕佐の方へなげ、「まあ、此散らかし方! まるで屑屋さんのやうですわ。」と尻上りの調で云つて一寸突つ立つた。「貴様、探して見い、ありやせん。」

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